『楽園』



作:愛に死す




「さすがに美しい海だなぁ」
 私は今、南の島でバカンスを楽しんでいる。この島は近年、観光地として開かれた。エメラルド色の海、どこまでも続くかと思われる白い砂浜、素晴らしい風 景だった。私はこの旅行から帰ったら、父の跡を継ぐ事になっていた。仕事といっても、重役が決定した事柄に対して承諾を与えるだけである。お飾りのような ものだ。つまらないが、体を束縛される役目だった。
 この旅行は、自由気ままな学生時代の最後の冒険というやつだ。私はここで新たな出会いを求めていた。私の通っていた大学は、勉学に勤しむ学生ばかりで、ちっとも開放的な場所ではなかった。できる事なら、女友達でも作って一緒に遊びまわってみたい。
「あそこにいる女の子達に声をかけてみるかな」
 少し勇気が必要だったが、私は何人かの女の子に声をかけてみた。南国の楽園に遊びにおとずれ、女の子達も解放的な気分になっているらしい。緊張して私の誘いはたどたどしかったが、幸運にも数人の女性と知り合う事ができた。
「見ていてくれよ」
 サーフィンで女の子達に格好いいところを見せようと、私は海に入った。
「おおっ!?」
 しかし、私が乗ろうとした波は、浜に近づくにつれどんどん大きくなってくる。見た事もないほどの大津波だった。大津波は盛大に飛沫を撒き散らし、私に迫ってくる。
「こんなのは見た事がない!」
 私は怖気づいて、浜に戻ろうと思い振り返った。その私の目に、女の子が期待に満ちた眼差しで手を振っているのが見えた。ここで尻込みをしていたら、楽しい休日を送る事などできそうにない。覚悟を決めて私は波に向かっていった。
「とりゃぁぁぁ!」
 気合を入れ、どうにかバランスをとって大津波に乗る。
「こ、これくらい」
 しかし、私の強がりもそこまでだった。波の勢いは強烈だった。波に乗ったと思った瞬間、私は体勢を崩してサーフボードから転落した。木の葉のように波にもてあそばれる。息ができない。私は海面に出ようとあがいていたが、力尽きて気を失ってしまった。

 静かな波の音が聞こえる。どうやら、私はまだ生きているらしい。しかし、体全体がきしんで動く事ができない。まぶたも鉛のように重かった。
「うっ、く」
 呻き声を出すのが精一杯といったところである。私は砂浜に大の字に寝そべっていたまま、ウトウトとまどろんでいた。
「ピチャピチャ」
 体をくすぐる生温かいものの感触で、私は眠りから覚めた。その感触は腹から胸へ、そして、首から顔にあがってきた。
「くすぐったいよ」
 私は身をよじって薄目を開けた。するとそこに見えたのは鋭い牙だった。
「うわっ!?」
 獣に襲われたのだと思い、私は慌てて飛び起きた。そのまま後退り、獣の正体を見極めぬまま、急いで逃げ出した。後ろも振り返らない。ところが、獣は私を 追いかけてくるようである。砂を蹴る軽快な足音が、背後からドンドン近づいてくる。私はズボッズボッと砂に足を取られながら走っているのだ。かなうはずも ない。私はすぐに息が切れた。まだ体力が戻っていない。
「はぁはぁはぁ」
 私は足がもつれて砂浜に倒れこんだ。もう一歩も動く事なんてできやしない。獣は私に追いつくと、足をとめたようだ。私は覚悟を決めた。しかし、最後の瞬間はなかなかやってこない。私は恐る恐る目を開けてみた。
「あれ?」
 拍子抜けしてしまった。私の前に立っていたのは人間の少女だったのだ。少女は肌が真っ黒に日に焼け、ほとんど衣服らしいものを身に着けていない。ここの島の原住民だろうか。
「おかしいなぁ」
 寝ぼけて錯覚し、獣の牙が見えたのだろうか…いや、そうではない。彼女には鋭い犬歯が生えていた。私の犬歯よりはるかに大きく鋭く尖っている。しかも、 耳の形もおかしかった。少女の耳は長く垂れ下がり、その耳からはフサフサとした金色と茶色の毛が交じり合って生えている。しかもだ、少女の腰では、パタパ タとなにか振られている。
「夢を見ているわけじゃないよな」
 私はゴシゴシと目をこすった。しかし、かえって目の中に砂が入って視界がぼやける。私は目に異物が入った痛みで、しばらく目を閉じていた。もう一度目を開けたら、彼女の姿などいなくなっているかもしれない。私は密かに心の中で祈った。
「あいたたた!」
 ところが、錯覚でない証拠に私の耳に痛みが走った。少女が私の耳を引っ張っているらしい。私は目を開けてみた。相変わらず少女はそこにいる。
「へんな格好だな」
 少女の喋った言葉は、多少なまりがあるものの、間違いなくこの辺りで使われている言葉だ。
「オマエ、いったいなにをしてるんだ。楽しい遊びか?」
 もの珍しそうに、少女は私の周囲をグルグルと歩き回った。興味津々に私の体をあちらこちらと指で突いてくる。少し痛い。少女の指をよく見ると、鋭い爪が伸びていた。あんな爪で突かれれば、確かに痛いだろう。私の肌から血が滲んでいた。
「ちょっとやめてくれないか?」
 私にいわれると、少女はキョトンとした目で私を見返した。私に注意されたのが不思議らしい。
「こほん」
 咳払いを一つして私は少女に話しかけた。
「私はこの島に漂流してしまったらしいんだ。それで、君に起こされたのだけど…なにをしてたんだい?」
 私はまず疑問に思っていた事をたずねた。あの感触はなんだったのだろう。
「オマエ、美味そうだった。味見していた」
「うげ!」
 少女に体中を舐め回されていたらしい。しかも、エッチな事をするならいいものの、獲物として狙われたのじゃたまらない。
「オマエ、死んでいると思った。だから、喰おうとした。残念」
「いや、私は残念じゃないよ、ははは…」
 私は乾いた笑い声をあげた。この島では食人の習慣がまだあるらしい。
「この島、生きているおす必要ない。オマエさっさと出て行け」
 少女は私への興味を失ったようだ。
「そうしたいのは山々なんだけどね。どうしたら私がいた島に戻れるのかわからなくて…」
 私は困惑した表情を浮かべ、両手を左右に広げてみせた。
「オマエ、おすのくせに情けないやつだな」
 少女が淡々とした口調でいう。
「うぐっ、ごもっともで」
 私はいい返せない。
「仕方ない、オレについてこい。島を案内してやる」
「助かるよ」
 心の余裕を取り戻し、少女の顔をよく眺めてみると、かなり可愛らしい。耳がフサフサとしているのは、この民族独特のアクセサリなのだろう。少女の着てい る服は、ビキニのように胸と股間を隠している程度のもので、なんらかの毛皮でできているようだ。もっとも、あんな光沢をした毛皮を私は見た事がない。きっ と、この島に住む珍しい動物の毛皮なのかもしれない。
「君みたいな娘と一緒だったら楽しそうだ」
「オレ、オマエみたいな軟弱なおす嫌いだ」
「なかなか手厳しいね」
 だが、ワクワクした気分に私はすぐ冷や水をかけられた。
「こっちだ」
 少女が先導して私の前を歩く。スタスタと歩いて、なかなか足が速い。私は小走りに歩いて、少女に追いつかなければならなかった。もっとも大変とはいえ、 後ろを歩いているとなかなか楽しくもある。少女のふっくらとした尻を、目のあたりにする事ができるからだ。目の保養になる。少女は全く気にはならないらし い。
「それにしても奇妙だ」
 とはいえ、私は少女の尻の上で振られている、フワッとした茶色い毛で覆われたものが気になって仕方なかった。その…尻尾のように見える。大きさは私の手の平ほどであろうか。私は思わず少女の尻尾を触ってみた。
「キャン!?」
 少女が飛び上がる。
「変な所を触るな!」
 牙を剥き出しにして、少女は私を睨みつけた。猛獣のようだ。しかし、心なしか少女の顔が紅潮しているようにも見える。
「そこは敏感なんだぞ」
「ごめんごめん」
 私は素直に謝った。少女の機嫌を損ねては、生きてこの島から出られそうにない。しかし、触った感触は、確かに犬の尻尾のようであった。毛の中には骨のように固いものがあった気がする。
「………」
 その後、お互いに喋ろうとせず、気まずい沈黙が続いた。そのまま一時間以上歩いていたが、少女はいきなり立ち止まった。
「腹が減ったな」
 ググゥと少女から盛大な音が聞こえる。そういえば、私も腹が空いている。漂流してからなにも口にはしていない。
「猟の準備をする。そこに座っていろ」
 どこからか少女はポシェットを取り出した。ゴソゴソと中を漁り、ナイフと糸を取りだすと、木の枝を切って器用に削り始めた。みるみるうちに形になっていく。それは弓矢だった。
「自分の獲物は自分で獲れ」
 少女は私に弓矢を放り投げた。しかし、こんなものは使った事がない。鹿のような生物を見つけ、試しに矢を放ってみたが、見当違いな方向に飛んでいってしまった。
「オマエ、へたくそだな。おすでないほうがいいぞ」
「その通りですよ」
 私はふてくされた。それに、歩きづめで体力も限界にきている。そんな私に、野兎が視界に入った。手の届く距離にいる。これなら私でも捕らえる事ができるかもしれない。
「そこだぁ!」
 私は野兎に飛びかかった。しかし、野兎はあっさりと私の動きをかわす。私は性懲りもなく、何度も飛びかかって野兎を捕らえようとしたが、野兎は私を嘲笑うかのように、紙一重でかわしてしまう。野兎は私達からかなり離れた場所まで逃げてしまった。
「だらしのないやつだな」
 少女は腕を組んで憤慨していた。
「こうするんだ」
 身を屈めると、少女は四足で駆け出した。猟犬のようだ。とんでもないスピードである。あっという間に野兎に近づくと、牙をむき出しにして獣のように襲い かかった。野兎に逃げる暇などありはしない。少女が立ち上がると、その口には野兎がくわえられていた。野兎の喉元を鋭い牙で一撃である。少女の喉から首に かけて、真っ赤な血が滴り落ちていた。
「わかったな」
 少女は野兎を口から吐き出した。口元が真っ赤に染まっている。しかし、私は怖いとは思わず、少女の野性的な姿を美しいと感じた。
 私はお情けで、彼女から野兎の腿肉を貰った。長い時間をかけてどうにか火をおこし、肉をあぶる。その間、彼女は野兎を生肉のままガツガツと平らげていた。よほど、歯と胃が丈夫にできているのだろう。
「ねぇ、そんな事してお腹を壊さない?」
「この方が美味いのに、オマエ変なやつだな。腐りかけはもっと美味いぞ」
「うげぇ!」
 少女とはちょっと嗜好があいそうにない。私は焼いた腿肉をゆっくりと食べた。とてもじゃないが量が足りそうにない。少女の様子を見ると満足しているようだ。笑みを浮かべて、骨をしゃぶっている。
「ちくしょう!」
 私は明日はちゃんと獲物をとろうと心に誓った。その日は、洞窟を見つけそこで夜を明かした。南の島とはいえ、夜になると気温はそれなりに下がるようだ。寒気を感じる。私はガタガタと震えていた。そんな私の様子を見て、少女はいきなり私の額に手をあてた。
「オマエ、熱があるようだな」
 無理の連続である。しかも、慣れぬ気候で体調がおかしくなって当たり前だった。私の体はグッショリと汗をかいていた。このまま海パンだけでいたら、ますます風邪がひどくなりそうである。しかし、ここには毛布もなにもない。
「寒いな…」
 体が冷える。私は尿意を催して、洞窟の隅で海パンを脱いで用を足そうとした。
「すっきりする」
 私はいい気持ちになって目をつむった。何故か側で気配を感じる。横を見ると、少女が真剣な目で私の股間を凝視していた。しかし、いったん出し始めたらと まらない。私は仕方なくそのまま小便をした。恥ずかしいながらも、美しい少女に見られ、私のペニスはムクムクと大きくなっていく。
「見かけによらず逞しいモノを持っているな」
 少女はポッと頬を赤らめた。見かけによらず純情らしい。
「おすなんてここ最近オレは全く見てなかったからな。懐かしくもある」
 子犬のように少女は私にすり寄った。
「オレのはもっと小さかった」
 少女は潤んだ瞳で、私のペニスに手を伸ばした。ペニスに触れそうになる直前、少女は慌てて手を下げた。
「オマエ、今日はオレと一緒に寝ろ」
 私だって洞窟の外で眠るつもりはない。だが、少女がいった意味はそうではなかったらしい。私が横になると、少女は体を寄せてきた。
「あたたかいだろ」
 少女がニッコリと笑う。確かに少女の着ている毛皮は、なんで出来ているかわからないがとても温かかった。人肌とでもいうのだろうか、とても気持ちがよい。私は彼女を抱き寄せたまま、いつしか眠りに落ちていた。

「気持ちがいい朝だ」
 翌朝、私は快適な気分で目を覚ました。不快感など何処かへさっぱりと消え去っている。私の側で彼女はまだ丸くなって眠っていた。可愛らしい寝顔だ。もっとも、大口を開けて涎を垂らしていなければの話ではある。それにやはり、時々見える牙がちょっと怖くもあった。
「まるで獣みたいだよなぁ」
 それにしても少女はいったい何者なんだろうか。こんな耳をした人間は普通いないだろう。アクセサリだと思って無理矢理自分を納得させていたが、じっくり見ていると少女が寝返りをうつ度に耳もピクピクと動く。
「やっぱり確かめてみたい!」
 私は興味を押えきれなくなり、そっと少女の耳を触ってみた。私の手が触れると、それに反応して耳はピクピクと震える。間違いなくこのフサフサとした耳 は、少女のものらしい。そして少女の着ている毛皮…これは少しもずれたりしないのだ。きっちりとした服かと思ったが、それにしてもおかしい。私は試しに少 女の胸に手を差し入れてみることにした。
「入らない!?」
 しかし、いくら私が毛皮の中に手を突っ込もうとしてもそれはできなかった。それどころか、胸をさわると柔らかい感触があり、突起物が手にあたった。乳首 に違いあるまい。ゴクリと喉を鳴らし、こんどは股間に手を入れてみた。毛皮をかきわけてみると、桜色のスリットがある。疑いようがなかった。少女の着てい たと思われた毛皮は、少女自身の体毛なのだ。
「本当に獣みたいだ…」
 野兎を四足で走って捕らえたようにまるで獣、それも犬のような特徴を備えた少女である。こんな生物がこの世に存在するとは私は思いもしなかった。私が飽 く事なく少女の寝顔を眺めていると、少女は大きく伸びをし目を覚ました。私はしばらくこの島に滞在するのも面白いと考えはじめていた。
「おはよう。ちょっと話を聞きたいんだが、この島には君みたいな人間がたくさんいるのかい?」
「1、2、3…わからない。とにかく、たくさんだ」
 少女は指を数えていたようだが、途中でわからなくなったらしい。投げやりに答えた。
「この島に少し滞在してもいいかな?」
 思い切って私は少女にたずねた。私の問いに少女はしばらく考えている。難しい顔をして唸っていたが、ニパッと大輪の花のように笑った。
「オマエこれ食え」
 少女が差し出したのはお菓子の箱だった。
「は?」
「ここの島、おすいらない。オレもめすになった」
「……どうぶつクッキー???」
 いまいち少女のいっている意味がよくわからない。
「しっぽもはえるぞ」
「いや、そうでなくて」
 私は少女の言葉を遮った。しかし、彼女は犬のように尻尾をふって、キラキラと瞳を輝かせ、期待に満ちた眼差しで私を見詰めている。
「久しぶりに遊び仲間が増えるぞ」
「遊んであげるのはいいんだけど…」
 一瞬、夜の遊びもといおうとした自分に苦笑する。今まで出会った事のない類の少女だけに惹かれているのかもしれない。
「食え」
 少女はクッキーを突き出した。
「楽しみだ。あ、あれ、興奮し過ぎたのか体が熱いよ!」
 いきなり少女はハァハァと荒い息をしはじめた。瞳が潤み、体が火照るのか滝のような汗をかいている。私の風邪が移ったかと思ったが、そうでもないらしい。
「きちゃった。きちゃったよぉ」
 少女は股間を弄んでいる。毛皮が濡れていた。
「話には聞いていたけど、は、発情期がきちゃったぁ!」
「へ!?」
 私に少女は飛びかかった。いきなり、私の海パンを爪で切り裂く。いきなり、私のペニスをしゃぶりはじめた。
「たまらないよぉ」
「うっ!?」
 少女の舌はザラザラとしていて気持ちがいい。たまっていた事もあり、私はすぐにペニスから欲望を吐き出してしまった。少女の顔に白くペイントされる。
「まだまだだよぉ」
 少女は私に尻を向けた。短い尻尾が激しく振られている。私は欲望に負け、獣のように後ろから少女を突きまくった。
「痛いけど…変だよ。どんどん、気持ちよくなるよぉ!」
 甘い声が洞窟に響く。少女は激しく私を求めた。私も体力の続く限り、少女と交わり続けた。
「こんなに凄いとは思わなかった。めすになってよかった」
「君も情熱的だった。素晴らしかったよ」
 私達は三時間以上も洞窟の中で一緒になっていた。さすがにクタクタである。しかし、私は充足感を感じていた。死にかけたとはいえ、この奇妙な出会いに感謝したいくらいである。
「オマエ、気に入った」
「私もしばらくこの島で過ごしたい。その前に連絡をとりたいから、この島から出る方法を教えてくれないか?」
「つまらない…オマエと離れたくない」
 少女はブスッとした顔をしたが、それでも親切に私を案内してくれた。途中、少女に導かれるまま私は岩だらけの山を登る事になった。かなりきつい。
「オマエ、頑張れ!」
 お互いをよく知り合い、少女は微笑んで親しみをみせてくれている。私は少女の力を借りて、なんとか頂上まで辿り着いた。遠くまで一望できる。目を凝らしてみると、浅瀬を挟んで観光地として訪れた島らしきものが見えた。まだまだ遠いがこの調子でいけば辿り着けそうである。
「頑張るぞぉ!」
「その意気だぞぉ!」
 気合を入れたのも束の間、二人から盛大にお腹の音が鳴った。そういえば、朝からなにも口にしていない。ふと見ると、鹿のような生物がいる。多少遠いが捕 まえられるかもしれない。気分が高揚していた私は、弓矢を持って山を駆け下りた。しかし、私は少し山を舐め過ぎていたようだ。小石にけつまずいて、私は山 の斜面を転がり落ち、崖から真っ逆様に落ちた。
「ぐっ!」
 崖から滑り落ち、私は衝撃に体をくの字に曲げだ。血が流れている。骨も折ったようだ。しかし、痛みは感じない。
「失敗してしまったな」
 ぼやけた目で頭上を眺める。少女が崖の上から私を心配そうに見ていた。崖は十メートル近くある。とてもではないが、助けを求められるような状況ではない。しかし、少女は私の姿を確認すると、崖から飛び降りた。ほとんど垂直になっている山肌を走って駆け下りてくる。
「大丈夫か?」
 苦もなく少女は私のもとにやってきた。しかし、少女の言葉に私は首を横に振った。さすがに、この状況では長く生きていられそうにない。少女は悲しそうな顔をすると、ポトポトと涙をながしはじめた。ワンワンと大泣きに泣きまくる。
「オマエ、これ食え。食えば元気になる。オレも元気になった」
 少女は泣きながら、どうぶつクッキーを差し出した。
「ありがとう」
 私は少女の心にこたえる為、体に残っている力を全て使って、クッキーを一枚つかんだ。犬型クッキーだ。どこか少女に似ている気もする。
「君そっくりだよ。私もこれを食べたら君みたいに強くなれるかな」
「もちろん、オレが保証する」
 少女は泣きながら頷いた。
「おいしいよ」
 私はクッキーを口に入れた。甘く香ばしい。
「少し休ませてくれ」
 静かに死が私に近づいてくるようだ。私は目を瞑った。
「起きたら、オレと遊ぶんだぞ」
 かろうじて私は片目を開けた。
「ああ、約束だ」
 私はガクッとこうべを下げた。意識を失ってしまったようだ。
 どれほど、意識を失っていたのだろうか。やがて、全身を襲う激痛で私は意識を取り戻した。
「まだ生きている…?」
 あれほどの怪我がなくなっていた。何かが起こっているらしい。体が縮んでいき、メキメキと音を立て骨格が変わっていく。それに、どうやら耳も垂れ下り始めたようだ。胸と尻もグッと盛り上がっていく。私は無意識のうちに体をおそってくる熱さと息苦しさにあえいでいた。
「うっ、はぁ、ああっ!」
 その声もどこかなまめかしい。少女が固唾を飲んで私を見守っていた。私の日に焼けた体は、滑らかな艶を放ち始めていた。犬歯が大きく鋭い牙のようになると、私の腰にはパタパタと左右に揺れる尻尾ができあがっていた。
「くぅぅん」
 変化が完了すると、私から苦痛は去った。今までにないほど力が満ち溢れているような気がする。
「あ、あれ?」
 私は自分の変化に驚いた。肉球のようなものが手の平にでき、爪が鋭く伸びている。体にはフワッとした純白の美しい毛が生え、胸を触ってみるとプニプニと して柔らかい。股間の白い繁みを探してみたが、大木は切り倒されでもしたかのように何処にも見つからなかった。まるで目の前の少女のようになってしまって いる。しかも、雌にだ。
「オマエ、オレ達の仲間だ。仲良くやっていくぞ」
 少女はパタパタと尾を振って笑っている。私はこれからの事を考えようとしたが途中でやめた。頭のなかも犬のように楽観的になっている気がする。私の腹が空腹でなった。
「まずは獲物を獲ろう」
 私は野兎を見つけると、四足で駆け始めた。少女もあとからついてくる。これから楽しくなりそうだ。



あとがき 
 まずはこころよくイラストを題材にして小説を書く事を承諾して頂いたみかん飴さんに感謝致します。
 読者の皆様、最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。
 私はTSケモノッ娘って大好きなんですよね。小説もそうなんですが、イラストなんてほとんど見かけた事がない。はっきりいってみかん飴さんのイラストには萌えました!
 もしこの小説を読んで面白いと思ってくれた方がいたなら、一緒にこの分野を広げていきましょう(笑


 なお、この作品に登場する団体・個人は、実在のものとは一切関係のない事をお断りしておきます。
 また、この作品に関する権利は、作者に帰属します。この作品の無断転載・全部、または一部を改変するような事はご遠慮ください。


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